『日本歯技』2025年11月号巻頭言

『日本歯技』2025年11月号 巻頭言

「歯科技工所の質の担保」を支える労働環境改善の取組
~『雇用安定のための手引き』発刊に寄せて~

 政府が発表した「経済財政運営と改革の基本方針2025」、いわゆる『骨太の方針』には、歯科技工士の離職対策や人材確保、さらに「歯科技工所の質の担保」が初めて盛り込まれた。良質な歯科医療を提供するには歯科技工所の質が極めて重要であり、歯科技工士の人材確保と並んで取り組むべき課題である。これに関連して、福岡資麿厚生労働大臣は2025年9月5日の会見で、関係団体と連携し処遇や就労環境の改善に努める考えを示した。こうした方針の背景には、歯科技工士の労働環境改善が業界の最重要課題となっている。
 労働基準法は働く人々の生活と権利を守り健全な労働環境を実現するための基本法であり、その遵守は歯科技工所に不可欠である。そして、健全な運営には労働基準法の遵守と適正な歯科技工料金の設定が両立してこそ実現できる。このため公益社団法人日本歯科技工士会は会員への啓発・指導を担い、経営者には事業運営において労働環境に配慮する責任が課せられる。さらに、経営者と勤務者が共通認識を持ち、互いに協力して改善を進めることが求められる。
 その具体的な支えとなるものとして、歯科技工士労務対策委員会は『雇用安定のための手引き』改訂版を発刊する。本手引きには労働法や雇用保険の基礎知識に加え、子育てや介護との両立、36協定、非正規雇用の待遇改善などが盛り込まれている。経営者と勤務者がこれらを共有し協力を進めることで、健康で充実した生活を支える環境改善は働きやすさの向上に直結する。さらに社会保障制度への理解を深めることで、安心して働ける環境を整え、健全な歯科技工所運営の基盤を築くことができる。
 歯科技工士法制定・日本歯科技工士会創立から70年を迎えた。歯科技工所はこの間、国民の健康寿命の延伸に寄与してきた一方で、労働環境には依然として課題が残されている。この節目を契機に、労働基準法に基づく適正な事業運営を徹底し、「歯科技工所の質の担保」に向けて取り組むことが重要である。
 本手引きが、会員各位はもとより、歯科技工界全体において労働環境改善の一助となることを願うものである。
 

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