『日本歯技』2025年5月号巻頭言




歯科診療報酬の中の製作技工に要する費用の認識


 安心・安全で質の高い医療の推進および効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上等を基本的視点とする中で、歯科医療の役割は健康寿命の延伸に大きく寄与しているとされている。
 その一端を担う歯科技工士の役割と責任は重要であり、良質な歯科補てつ物を安定して供給することが求められている。
 令和6年度診療報酬改定では、賃上げへの対応が重点とされ、診療報酬点数表第12部における欠損補綴に関する評価が大きく引き上げられ、歯冠修復についても何年かぶりに評価が上昇した。
 製作技工に要する費用(歯科補てつ物等の製作)に関しては、歯科医療機関と歯科技工所間での委託・受託の関係が、歯科技工所経営のみならず、歯科医院経営においても適正に維持されなければならない。しかし、実際には歯科医療機関が委託側として主導的な立場にあるため、歯科技工所に対する費用が十分に確保されず、その結果として歯科技工料金が低下し、歯科技工士の減少という問題の一因となっている。
 この問題に対処するため、国は「歯科医療機関から歯科技工所への製作技工の委託を円滑に実施する観点から標準的な割合を示したもの」として、1988年にいわゆる「7:3大臣告示」を行った。この告示を前提に、委託側歯科医療機関と受託側歯科技工所双方が、歯科診療報酬の仕組みについて共通認識を持ち、歯科技工料金の取り決めを行うことが重要である。
 日本歯科技工士会では、『令和6年度診療報酬改定講習会』や、厚生労働省委託『令和6年度歯科補てつ物製作過程等の情報提供推進事業』と併催された『診療報酬研修会』等で周知、啓発に努めてきた。今後は、各地域組織において担当者を選任し、製作技工に要する費用の考え方を全国の歯科技工士に周知するよう事業展開していく。
 歯科技工士の減少問題が広く認識される中、先に行われた『歯科技工士実態調査』を参考にし、歯科技工料金を適切に設定し、健全な歯科技工所経営の基礎となるよう、全国の歯科技工士が他人事ではなく自分事として、新たな時代へ一歩を踏み出すべきである。
 その力をまとめ改革を進めていくのが組織(日本歯科技工士会)である。
 

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